『電車』  ……どこだここは……  意識が覚醒して、最初の感想がこれである。  起きて最初に目に映ったのは、見慣れた天井でも、店の入り口でもなかった。  長い椅子に腰掛けていた。  直方体の空間で、窓からこれまた見慣れない景色が『移り変って』いた。    ……そうか……これが外の文献に載っていた『電車』と言うものか。  となると、ここは外の世界か……  しかし、なぜ僕はこんなところにいるのだろうか……  ……考えても仕方が無い……せっかく外の世界に来たのだ、せめて少しは見て回りたいな。  しかし…… 「止まらないな……」  電車というものは、どうやって止めるのだろうか。  たしか文献には『人身事故』がどうとか書いてあった気がする。  物騒な響きしかしないからこれは却下。  とりあえず、景色を見ながら気長に待つかな……  …………  ……どこだここは……    どうやら僕はいつの間にやら寝てしまっていたようである。そんなことより……  さっきと同じ電車に乗っているのは間違いないようだが、景色が先ほどと違いすぎる。  前は高いビルばかり見えていた風景が、今は山や田んぼばかりである。  とりあえず、止まったら降りるか……  そんなことを考えていたら、  とん。 何かが肩に当たった。  見れば、人の頭がある。  邪魔だと思い揺さぶろうとすると、髪が長いことに気付く。    ……女性か……  さて、どうしたものか。  起こすか、起こさないか。  ……まあすぐ気付くだろう。  そんなことを考えていると、電車が止まった。 『森林公園、森林公園』  そんな声が、何処からか流れてきた。  せっかく止まったのだ、外に出て町並みをこの目に焼き付けなければ……!! 「君、君、起きてくれないか」  ……反応が無い……この娘には悪いが、降りさせてもらうか……  そんなことを考えていたら……  ベルが鳴って、ドアが閉まってしまった。  あぁ……僕の外の世界体験の時間が遠ざかっていく……  僕は何処に向かっているのだろうか……  向かえば山が目立っていく、僕は外の道具に興味があるのに、これでは……  …………  そんなことを繰り返しているうちに外がすっかり暗くなってしまった。  小川町……東武竹沢……  男衾……鉢形……  暗くて外に何があるのかが分からなかったが、気付けば明かりも見えてくる。  もしかしたら、期待通りのところに行けるか?  そんなことを考えていたら…… 『玉淀〜玉淀〜』 「んん……ぁっす、すいません…」    やっと起きたようだ。  ぐっすり寝ていたらしく、迷うことなく玉淀というらしい名前の駅で降りて行った。  ドアが閉まるスレスレを駆け下り……そして僕は次の駅への到着を待つことを余儀なくされてしまった……  ……もうどうにでもなれ……  そう腹をくくった僕は、終点の寄居という駅につくまで、目を瞑ることにした。  …………  「お客さん、お客さん。  終点ですよ〜」 「……紫、何をしているんだい?」 「あら、こういうときは慌てて飛び起きるものよ」 「知らないよそんなことは。  それより僕は外の世界を体験……帰ってきた?」 「夢でも見ていたのかしら?  ここは貴方の店でしょ」 「あ……ああ……」  あれは夢だったのだろうか。  しかし、文献でしか知らない外の世界を、夢であのように現れるものなのだろうか。 「では、また来ますわ」 「……何をしに来たんだ君は……」 「ちょっとからかいに」 「やれやれ」  となると、今日は一日寝ていたのか僕は。  そんなに疲れるようなことをやっていただろうか……  そんなことを考えていたら 「おや?」  服に茶色の長い髪の毛が付いていた。 「夢ではなかったのかもしれないな」  もし、眠ることで外に行けるのであれば、あるいは……  これだけ寝ていたにもかかわらず、今の僕は眠ろうと思えば眠れる状態になっている。  願わくば、また外へ……